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ヒンドゥの聖地ハルドワールで毎日行われているプージャー(神への礼拝)。神に捧げる火が人々の顔を染め、黒くなっていく河面を灯篭が次々と流れていく。
匠斎庵 仲村渠
2003年3月
北インド旅行記
 台北経由でニューデリーに到着したのは現地時間午前三時すぎ。深夜から明け方にかけてのこの時間、静寂に包まれているのかと思っていたが、空港周辺は驚くほどの人でごった返している。それに香辛料だろうか、独特の匂いが鼻をつく。宿に向かうバスの中、デリーの街並みを見ながら旅の始まりに大きく胸が高鳴っていく。旅の目的は三つ。この国の建築を見ることはもちろん、人々の生活とガンジス川の関わりを直に確かめること、現地の学校を訪ねるボランティアである。

 この国での建築の特徴はファテブル・シークリーに見られる風を通し、陰を作るデザインと、ル・コルビュジェが暑さ対策として試みたブリーズソレイユ(日よけの手法)に代表される。強い日差しと焼けつくような暑さから暮らしを守る大切な部分と言っていい。当然、沖縄の建築でも考えなければいけないことである。本来の業の部分で見聞しながら、そこに住む人々の暮らしぶりも眺めていく。人々の暮らしはガンジス川との関わりが深い。

ガンガーの源流ディヴバラヤーグの街。
2つの河が合流してガンガーとなる。
一番手前がこの地域の沐浴場。

ヒンドゥ修行者の町リシケーシュで
夕の礼拝をする人々

集落のマチヤグヮーで店番をする少年。
愛嬌があり人なつっこい瞳が印象的。


リシケーシュの街のスージ小。
日除けのシーツで暑さをしのぐ。
 現地の人はこの川を「ガンガー」と呼び、聖なる河として信仰する。「ガンガーはすべてを洗い流してくれる」という。沐浴することで身を清め、死んだ後は灰となってガンガーに還る。日常の生活から、人生の「再生」まで、ガンガーに還り、ガンガーから始まるのだという。

 この河はすべてを再生するという思想が人々の深い信仰の対象になっているのだが、かつての生態系の中では生活を含めすべてを浄化することができたこの河も、文明が高度になるとともに現れた自然に還らないもの(ビニールやプラスチックなど)が河面にプカプカ浮かび、河底にも堆積している。海洋のウミガメや深海魚たち、岸辺のヤドカリたちへも影響を及ぼしている現状がある。人間の利便性のみを考えた発展は、もはや再生する場所をもなくし、信仰さえも揺らいでいくのかと危惧する。

 インドの状況は人の多さや貧しさ、文明のせいばかりとはいえない。古くからの厳しい制度の影響は根強いのだ。今なお残る人々の間の大きな格差がインドの今を作り上げ、混沌としながらも生きる力強さとなり、この国の魅力ともなっている。

 ボランティアで訪れた小学校では多くの子どもたちが迎えてくれた。貧しくてもキラキラ輝く子どもたちの瞳が胸を打つ。未来を見つめる多くの瞳がかつてのガンガーへと導く清い水となればと願う。
16世紀に建てられたファテプル・シークリー。赤砂岩を木のように扱った、木造軸組的架構法が魅力である。
ル・コルビュジェ設計による裁判所。大きな庇。ブリーズ・ソレイユ(日除け)立体的な造形。これらはインド伝統建築の流れにある。
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