創立117年を迎える歴史のある美東小学校の正門広場(れきし広場)には、
地域の人達と共に育てて来た樹木や記念碑等が多く存在する。
この広場の一角には、昭和38年に地域の方々の寄付金で自力建設した(当時としても珍しい)図書館があり、
永い間、子供たちに親しまれ、広場の環境と共に美東っ子(泡瀬っ子)たちの「豊かな心」を育み見守って来た。・・・・・
創立100周年には、地域の方々(卒業生達)が立ち上がりこの広場に
記念モニュメント「万世」を建立し次の世代の子供たちにメッセージを残した。
卒業生たちは、この豊かなコミュニティの環境での学校生活(物語)が記憶に残り、
「わったぁ~学校」という愛着の意識が芽生え、卒業しても世代を超え地域として学校を支えている。・・・・
老朽化による全面建て替え事業は、諸事情により校舎と運動場が入れ変わる計画の為、
この歴史広場は、配置を大きく変える事となった。
今回の設計では、地域と共に成長してきた美東小学校の伝統を受け継ぎ、卒業生や地域の方の思い出を繋ぎ、
記憶を繋ぐ、地域に根ざした新しい「わったぁ〜学校」つくりを大きなコンセプトとして進める事となった。
長年親しまれてきたこの歴史広場は、位置を変えても樹木や記念碑を全て移植することにより思い出を残しながらも、
新校舎と共に未来に繋ぐデザインとして再生する計画とした。
基本計画で示されていた、フィンガープランの配置は実施設計では各棟を幅2.7mの回廊(アマハジ空間)で繋ぎ、
建物外周にも回廊を配置した。この回廊は回遊性のある遊びと学びの空間となり、災害時には避難回廊として機能する。
また、アマハジ回廊は、壁面緑化され、21世紀の学校建築として、環境負荷を考慮した。
「緑をまとう学校」として、歴史広場と共に地域のオアシスとして機能する計画とした。
学校生活の中で毎日目に触れてきた、卒業生たちが描いた思い出の詰まった壁画は、ポップ調に再編し、
過去と未来を繋ぐ空間アートサインとしてダイナミックに表現され新校舎の主役として新たに蘇った。
新正門前広場(歴史広場)から連続する昇降口には、地域の伝統や歴史を伝えるコーナーと
旧図書館の資料を展示するスペースを設け、地域と学校の関りを意識させた。
基礎工事中に地中から出て来たニービ石は昇降口正面のメイン階段の脇に石庭として配置し、
子供たちに地域の特性を伝える事とした。
この学校が、今後整備される歴史広場・グラウンド・幼稚園建て替え事業と共に、
新たな「わったぁ~学校」として、子供たちや先生方、地域の方々の思い出を「万世」に繋ぐ「地域に根ざした学校」となる事を願う。
外観を見る
「緑をまとう学校」をコンセプトに、建物外周に施された緑化。子供達が過ごす空間を豊かにするだけでなく、様々な効果がもたらされる。
昇降口
学校生活への気持ちの切り替えの場となる昇降口。白を基調とした吹抜け空間に、カラフルで親しみやすいイラストが子どもたちを迎え入れる。
2階部分には、美東小のシンボルであるレイシの木が描かれている。
図書室
図書室は、子ども達が立ち寄り易い昇降口の隣に位置し、ゲート性のある入り口が、子ども達を読書の時間へと導く。
室内には、地域の伝統を伝える大綱引き・ちょんだらー・獅子舞などが描かれている。
中庭1・2
特別支援教室と接続する中庭は、適度な広さを確保しつつ、建物に囲まれることで落ち着いた外部空間として機能する。
ガラスの階段下には工事の際に地中から取り出されたニービ石が配置され、土地の記憶を繋ぐ。
プライバシーの観点や砂ぼこり対策などから屋上に配置されたプール。
海をテーマに卒業生のイラストを集めプール空間を演出している。
主要な特別教室・トイレは、壁の色によりゾーニングされ、廊下からもひと目でその場所が認識できる。
地域・学校連携施設
お茶会やPTAなどの様々な地域活動や子ども達のダンススクールなどが行える地域・学校連携施設。
家庭科教室と近接しており、料理教室なども連携して開けるように配置している。
教室
中庭に面した明るく開放的な多目的スペースが各教室を繋ぐ。教室の間仕切りを開放することで、様々な学習形態に対応する。
各教室のコーナーにはティーチャースペースを設け、次の授業への準備をスムーズに行うことができる。
旧校舎に描かれた卒業生たちの壁画をモチーフにサインをデザインし、各室の室名札や各所の壁に配置した。
各所に散らばる愉しげなイラストが学校生活に彩りを加え、OB・OGの方々の思いが子ども達の身近に存在する校舎となった。
新校舎と体育館の間の通路には、6年生がガラス玉に言葉を書いて埋め込み、卒業前の思い出を校舎に残した。